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大会実行委員長 渡辺雅之
東京学芸大学 教授
いろはにほへと塾 塾頭













その3 マイケル・チミノ監督「ディア・ハンター」 ( 2010.03.05 )

大学院の授業(2009年度後学期)での課題図書として、「近代スポーツのミッションは終わったか」(稲垣正浩・今福龍太・西谷 修 著 平凡社 2009911日刊)を選び、輪読いたしました。

 その時本書の中にマイケル・チミノ監督の「ディア・ハンター」について論究されている個所があり、その記述や議論がどうも私が記憶しているものと違うように感じました。そこでDVDを探しに行きましたら、店員さんはいとも簡単に「ディア・ハンター」をありますよ、はい、と差し出してくれました。それは私の方が拍子抜けするくらいでして、そんなにポピュラーじゃないし、古いし、単に管理システムがいいだけなのかなぁ、などと思いながら帰路につきました。

 パッケージのストーリーや配役を見ても確かに見たことのないものなのですが、なんとなく知っていたかのような記憶の断片があるのはなぜでしょうか。さて、1978年のこの映画は約3時間の大作でした。

狩猟仲間が楽しく暮らし、仲間の結婚式で盛り上がる場面からは彼らがロシア系の移民であることが伝わってきます。そして、そのうち3人がベトナム戦争へ駆り出されてゆきます。マイク、ニック、スティーブンの3人です。

 ベトナムの戦地で3人は偶然にも遭遇してしまいます。敵側の捕虜として。

 非戦闘地を思わせる捕虜収容所内では、捕虜同士がロシアン・ルーレットを強要され、まさに精神崩壊させられる環境でした。マイクの決死の逃亡作戦が奏功して3人は脱出できますが、スティーブンは両脚に大けがを負い、結局両足切断の憂き目をみて入院先からの帰郷を拒み続けます。ニックは行方知らずですが、どうやらまだサイゴンにいるらしいのです。しかも、ロシアン・ルーレットのプロギャンブラーとして。「英雄」として帰郷したはずのマイクは、もはやかつてのマイクではなく、常に心に何かを背負って生きる暗い男になってしまっています。

 無理やりスティーブンを病院から連れ出し、帰郷させたマイクはニックがまだいるサイゴンへ向かいます。場末の秘密クラブでロシアン・ルーレットのギャンブラーとして生き続けるニックを探し出した時、ニックはもうニックでなくなっていました。あきらめないマイクは、ニックを正気に戻すためロシアン・ルーレットのテーブルで対峙します。そして、ニックが昔に戻りかけそうな瞬間、ニックが引き金を引くと銃口から銃弾が飛び出したのでした。ニックの遺体とともに故郷に戻るマイク、ニックの葬式と場面は進みますが、そこに流れる空気は彼らがベトナムへ向かう前のものとは違う、断絶された、歪んだ空気となっているかのようでした。


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