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大会実行委員長 渡辺雅之
東京学芸大学 教授
いろはにほへと塾 塾頭













その4 ベトさんとドクさん ( 2010.03.12 )

ドクさんが双子の父親になるというニュースを聞きましてまず思ったのは、枯れ葉剤の影響が赤ちゃんに出ませんように、ということです。2009年10月25日無事双子ちゃんは生まれたそうです。2か月ほど予定より早かったようですが。

 男の子は、グエン・フー・シーちゃん、女の子は、グエン・アイン・ダオちゃんと命名されました。男の子は富士山から、女の子は桜のベトナム語からと報道されています。

 ドクさんは、ベトさんとの結合双生児としてとして1981年に生まれました。どの新聞報道でも、いまだに「ベトナム戦争中の枯れ葉剤の影響とみられる結合双生児」との注釈が消えません。

 分離手術を1988年に受けられましたが、ベトさんは2007年10月に亡くなりました。

 ドクさんは2006年に結婚、現在は病院職員として働いているとのことです。ドクさん一家の幸福を願わずにはいられません。

 私はベトナム戦争後に報道されましたお二人の映像が頭にとてもよく残っています。枯れ葉剤の影響とみられるという注釈にいらいらしながら、あどけないお二人の人生を想像してました。

 その後いろいろと学ぶにつれて、薬剤と奇形との因果関係の立証の難しさを知るようになりました。サリドマイドという薬を飲んだ方に奇形児がたくさん生まれました。しかし、飲んでいない方にも奇形児が生まれることから原因がサリドマイド以外に求められ、結論として原因究明が遅れることとなりました。

 水俣病は原因企業チッソの工場廃水中の有機水銀が原因ですが、それが認定されるまでの長期間患者たちは放置され続けました。企業からだけでなく、国からも県からも見捨てられ続けたのでした。被害補償も未だ終わってはいません。

 不知火海の漁師の次のような発言が胸を刺します。不知火の人々の誇りは三つあって、一つは自分たちの海を恨まなかったこと、二つ目は水俣病の怖さに負けずに子を産み育てたこと、三つ目は原因企業のチッソの社員たちを傷つけなかったことだ、と。

 忘れてはいけない、繰り返してはいけない、と肝に銘じつつ。


 

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