ノーベル賞が世界最高の賞だと理解されている方は多い。確かにその分野での基礎的な研究で人類に貢献したり、世界で初めての発見であったりとハードルは高い。だが、ノーベル賞がすべてではない。どんなに優れていたとして生きていなければ受賞できない仕組みだし、言語的な境界の壁も厚い、と思う。応用分野は対象外、なのだ。
「賞」ほどくだらないものはない、と喝破した人がいる。同感する部分がある。「賞」を出す側の売名行為に等しいものも世には多い、のだろう。
その一方で真に重要なものも多い。長年にわたってそうした水準を維持することは難しい、ものである。
中村信子さん、86歳、ベトナム、ホーチミン市在と記事にはある(朝日新聞2009年8月27日付「ひと」欄)。第2次世界大戦中、留学生のルォン・ディン・クアさんと出会い、終戦後結婚し、京都大で農学博士となった夫とともに抗仏戦争が続くベトナムに1952年に渡った。
帰国後の夫は、高収量の稲の新品種開発や各地での農業指導にあたり、「英雄」の称号を受ける。そして、「ベトナム農業の父」とも呼ばれる。
5人のお子さんを育てながら、北部のラジオ局「ベトナムの声」でアナウンサーに。ベトナム戦争の爆撃下でさえ放送し続け、75年の戦争終結を日本に知らせたのも中村さんだ。その年に夫が55歳で亡くなる。その後もベトナムで家族とともに暮らす。
優れた農業研究の学生らを顕彰する「ルォン・ディン・クア賞」は2006年に創設された。中村さんはその授賞式に参列し、見守る。そして、今のベトナムでも若い人が戦争を知らなくなったことを憂う。可能なら次のようなことを伝えたい、そうだ。
「今の平和はどうやって勝ち取られたか、自国の歴史をよく知らないといけません。平和を見ずに死んだ人のことを考えて、ベトナムを発展させて下さい。
選考する側でもなく、国の農業を考える学生にエールを送る、そんな「賞」はステキだと思う。
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