ペンは剣より強し、と言われる。ゆえに、多くの芸術家たちは、いや科学者でさえも体制・国家から迫害、排除、監視、検閲、封殺、抹殺されてきた。多くの歴史的事実がそれを物語っている。
表現することは時として死を覚悟しなければならない。それほどに体制・国家は恐れている。大衆が目覚めることを。
作家ドー・ホアン・ジュウさんは、1976年、ベトナム北部タインホア省生まれ。2005年に発表した「金縛り」は大胆な性表現が論議を呼んだという。そして、最新の長編「蛇と私」は当局から出版許可が出ていないという(2009年4月8日付の時点で)。
朝日新聞論説委員、脇阪紀行さんの彼女へのインタビュー記事から。
ベトナム戦争後の暮らしぶりは?
「みんな貧しかった。幼い時1日1食のこともあった。3か月に1回の豚肉配給がどれほど楽しみだったか。私は飢えを忘れるため本をむさぼり読んだ。」
ベトナム戦争をどう見ていますか?
「戦争中、北では重度の障害者以外は兵士にならなければならず、多くの人々が犠牲になった。南も同じだったろう。愛する者を失った家族から見れば、彼らは戦争の被害者だったのではないか。抗米戦争と言うが、南北間の内戦と言う一面もあった。」
「金縛り」では、なぜ封建主義を批判したのですか?
「共産党は封建主義の打破を掲げ、地主を撲滅した。だが親の世代の多くが儒教の考え方や古い慣習に縛られたままだった。こうした封建主義への呪縛や不平等な中越関係念頭に小説を書いた。今の共産党も封建主義に取り込まれつつあるのではないか。こういった呪縛から抜け出したいが、まだ縛られ続けているのが私の世代だ。」
どこから閉塞感が生まれているのですか?
「戦争が終わって親の世代は喜んだが、戦争に勝ったという自信から指導者たちは自己満足に陥ってしまった。党幹部は汚職に手を染め、戦争の英雄の中にも人々に対し傲慢な態度をとる人がいる。」
メディアの状況は?
「共産党の汚職撲滅キャンペーンが活発だったころは活気があったが、今はそうでもない。汚職報道に熱心な改革派新聞編集長が昨年末、更迭された。党と政府がメディアに大きな影響を与えている。」
最新作の長編小説「蛇と私」はまだ出版許可が出ていないそうですね?
「当局の検閲が終わっていない。私は一介の作家にすぎず、政治活動をする気はまったくない。毎日の生活が少しずつよくなり、その中で自由に書いて、自由に発言し、出版できることを願っている。」
ベルリンの壁崩壊から20年と題するコラム(2009年12月28日朝日新聞)からドキッとする記述があった。すなわち、「政府を批判できない東欧諸国では、ひねりの利いた暗喩が発達し、独特の詩的表現が生まれたが、何でも出来るようになったおかげで、表現は停滞気味だ」という。
壁があった方が良かったのか。いや、違う。「壁と対峙した創造力は、壁の崩壊と共に、大きなまとまりとしては見えにくくなる一方、分散化し、世界へ広がった」と。
「禁演落語」なるものがあるそうだ。1941年に時局にふさわしくない、戦意高揚の妨げになるという理由で53席もの噺が自粛を強いられた。畏友三遊亭楽松師匠は、「平和落語」としてそれらを復活させる。まずは4月26日だ。東京は、上野松坂屋向いにある、お江戸上野広小路亭にて。
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