鈴木敏夫さんと言えば、スタジオジブリのプロデューサーです。これはジブリが出来るきっかけとなったお話です。朝日新聞夕刊(2010年3月30日)から。
鈴木さんが徳間書店でアニメ雑誌づくりを命じられた1978年、東映を出てテレビアニメを手がけていた高畑勲・宮崎駿両監督に電話して原稿依頼をしました。東映のアニメ「太陽の王子ホルスの大冒険」を載っけてやろう、と。
しかし、高畑さんは、取材には応じないという。しかも1時間もその理由を話し続けた人でした。次に、宮崎さんは8ページでは不可能、倍の16ページよこせ、と。
鈴木さんは埒があかず、取材を諦めました。が、「太陽の王子ホルスの大冒険」を見ていなかったのでした。
「太陽の王子ホルスの大冒険」は1968年の作品。もう10年もたっていたからでした。でも、どんな映画なのか興味をもった鈴木さんは見て驚いたのです。アニメでこんな思いテーマを取り上げられるのか。「こりゃベトナム戦争じゃないか。」
私は、この映画のことは知りませんでした。早速調べましたら、DVD化されていました。ラッキーです。鈴木さんはこの映画のいったいどこに「ベトナム戦争」を見たのでしょうか。3日後には落手できました。内容は以下の通りです。
古代北欧の伝説を土台にしています。少年ホルスは岩の巨人モーグの肩に刺さった棘を抜くことが出来ました。その棘こそが剣でした。この剣はもし鍛えることができれば「太陽の剣」となるものだそうです。ホルスはその剣を貰いました。そして、父親が亡くなる直前に悪魔によって村が滅ぼされたことを知ったホルスは仲間の村に戻りますが、その悪魔グルンワルドの力によって再三危機に瀕します。ホルスは村の鍛冶屋で剣を鍛えますが、一向にできません。偶然美少女ヒルダを助けたホルスも、彼女が悪魔の妹とも知らず、何度も窮地に立たされます。でも、ホルスは信じます。人間を、ヒルダの真の姿を。
いよいよ悪魔グルンワルドが村を攻撃してきます。悪魔の力とは何か、人間同士の中に、不信、迷い、羨望、嫉妬等の心の乱れを引き起こさせることでした。が、みなが一つになって立ち上がった時に、みなで燃やした炎で鍛えた剣は「太陽の剣」となったのでした。この剣を使ってホルスは悪魔グルンワルドと戦い始めます。その時、岩の巨人モーグが現れ、ホルスを助けます。
ホルスに打ちすえられ、村の衆に取り囲まれた悪魔グルンワルドは、太陽の光を一斉に浴び、いよいよ最期を迎えます。こうして悪魔グルンワルドを倒した時、ヒルダにかけられた魔法も消え、元のやさしい少女にもどり、ホルスや仲間に迎えられたのでした。
1968年の公開当時、「太陽の王子ホルスの大冒険」は散々でした。従来の子ども向けアニメから外れたからです。高畑さんは、「もう少し上の世代に見てほしいと思って作ったけど、届かなかった」と。
だが、内容がすごい。ストーリー、精密な映像等一級品だったものは、やがてジブリを生み出したのでした。ジブリ誕生のきっかけとなったこの映画のどこに鈴木さんは「ベトナム戦争」を見たのでしょうか。いや、むしろ鈴木さんの「ベトナム戦争観」こそお聞きしたいものです。少なくとも民衆の側に立ったものということは確信できます。
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