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大会実行委員長 渡辺雅之
東京学芸大学 教授
いろはにほへと塾 塾頭













その12 ベトナム フォーの愉しみ ( 2010.05.07 )

 ベトナムの食べものといえば、フォーと生春巻きを挙げる人がいる。このようなステレオタイプの人には閉口するのだけれど、確かにどちらもうまい。ホテルでの朝食時、その場でフォーを作ってくれるのがうれしい。麺を茹で好みの具材を指定して、アツアツを食す。激辛の鷹のつめを3かけら、ライムを絞るのを忘れてはいけない。これで十分。

 フォーの麺は米粉だ。うどんやパスタは小麦粉(強力粉)。麺のうち方も違う。成分の違いもあるため「腰」が違う。米粉は「腰」よりもスルッとした食感を楽しむことがいい。

 その米の主成分はでんぷん。アミロースという直鎖状のものとアミロペクチンという枝分かれ構造をもつものとから成る。粘りや「腰」に関わるのはアミロペクチンの方だ。

 一方、小麦粉の麺は多彩だ。うどんやそばのほか、ラーメン、スパゲッティ、ほうとう、もある。小麦粉には強力粉、中力粉、薄力粉と表示が異なる粉を店頭でよく見かける。天ぷらやトンカツでは薄力粉を使っている。うどんでは中力粉が多い。強力粉は、パンを焼くのに私は使っている。みなが楽しむ麺の「腰」とは、小麦粉に含まれるたんぱく質、グルテンの量に依存する。グルテンは、グリアジンとグルテニンとが水を得て生成される。

 たんぱく質含有量が12%以上なら強力粉だ。中力粉は9%前後、薄力粉なら8.5%以下となる。

 天ぷらを例にとれば、カラッとした揚がりにはグルテンが少ない方がいい。グルテンが増えることによって衣に粘りができ、具材や粉の水分が逃げにくくなってボテッとしたものになる。冷水を使うのもグルテンの生成を抑えるためだ。よくある海老天の厚衣は天ぷらの邪道だ。

 米にしろ小麦粉にしろ、こうした穀物を粉にすることによっていろいろなものに変化するから面白い。かつて「粉の文化史」なる本を読んだことがある。食の歴史はまさに粉の歴史でもあると記憶している。

 粉に水を加え、よくこねて、蒸したり、焼いたり、油で揚げたり、イースト菌などを加えて発酵させたり、その変化のさまを全過程体験すると「食育」の一つとなると考えている。

 私が主催する企画では、よく餅つきをする。つきたての餅がうまいことが主たる理由だが、マラソン練習後にはビールとつきたて餅が相性がいい、食育の一環となる、皆で餅つきをすると楽しい、自らの手で粉の文化史を体験できる、など他の理屈もある。

 自分でついた餅を自分でちぎり、他の人に食べさせる体験は重要だと考える。もちろん自分で食べておいしいと感じることも重要である。ヒトは生きるために他の命をいただいていかねばならない。金銭との交換で得るのではない。

 お粉といえば、小麦粉が主役だったが、米粉もだいぶ頭角を現してきたように思う。米粉のパンやケーキなどアミロペクチンによる独特のモチモチ感がたまらない。もっとも米粉パンを食べながら「アミロペクチン」などと口にしてはいけないのだけれど。

 ベトナムでは、街角の随所にある「PHO24」は何かと便利である。おいしく、早く、いろいろなトッピングでフォーを楽しめるレストランなのだ。ベトナムに不慣れな旅行者には大変ありがたい。

 が、独特の香辛料や香り豊かな葉っぱ類を楽しまねば。カラッとした揚がりはグルテンが少ない方がいい。

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